批評の手帖

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ガダマー『真理と方法』Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ―ついに翻訳完結・全巻揃う。

真理と方法〈3〉 (叢書・ウニベルシタス)

真理と方法〈3〉 (叢書・ウニベルシタス)

 切りがないので、書籍紹介はしないつもりだったが、この本だけは特別。

 昨日、お世話になった編者者に挨拶するために立ち寄った神保町で、偶々ハンス・ゲオルク・ガダマー『真理と方法・Ⅲ』の古本を見つける。
 『真理と方法・Ⅰ』は1986年に、『真理と方法・Ⅱ』は、そのおよそ20年後の2008年に、そして『真理と方法・Ⅲ』は翻訳開始から四半世紀を経た2012年にようやくその完結を見るという近年稀に見る気の長い訳業である。翻訳者の根気にはほとほと頭が下がるが、それ以上に、ようやくガダマーの主著を日本語で通読できるという喜びが大きい。バブルとポストモダニズムに浮かれ騒いだ80年代当時(初版時)よりも、むしろ現在の方が、ガダマーの真価は理解されやすいのではないだろうか。

 ハイデガー哲学を引き継ぎながら、その可能性の中心にある解釈学的循環―〈全体は個から、個は全体から理解しなければならない〉―を徹底的に掘り下げていったガダマーは、保守思想と〈文学・芸術・言語〉論とを繋ぐまたとない原理的考察を用意してくれている。と同時に、カント美学から始まって、ロマン主義美学、ディルタイの歴史的解釈学、フッサール現象学ハイデガーによる実存の解釈学を論じ、そして、常にそれらの解釈の中心にあってその解釈を可能にしてきた「言語」へと向かうというガダマーの足取りの全てが、20世紀哲学の総決算の趣を持っている。
 これまで、ガダマー哲学の核心部分(特にⅢ部の言語論)は、解説書の他、ガダマー自身の他の論文や、『真理と方法』既刊部分からその概要を掴むしかなかったが、ようやくその全体像を吟味できる条件が整ったということになる。
 ただ、今はむしろ、これだけの大著をじっくりと腰を落ち着けて「遅読」する時間があるかどうかの方が問題かもしれないが・・・。