批評の手帖

浜崎洋介のブログです。ご連絡は、yosuke.khaki@gmail.comまで。

『表現者クライテリオン』と『江古田文学』最新号のご紹介

 バタバタしていて告知が遅れてしまいましたが、『表現者クライテリオン』の最新号が発売になりました!
 特集は「『政治と宗教』を問う――神道・仏教からザイム真理教まで」。今号から表紙デザインがリニューアルされましたが、内容的にも力が入っています。
 まず、宗教学者島薗進先生と施光恒さんを迎えての巻頭座談会「日本人よ、自らの“宗教性”を自覚せよ」(島薗進氏×施光恒氏×藤井聡氏×柴山桂太氏)にくわえて、2つの特別インタビュー①「ザイム真理教という『カルト』による国家破壊」(森永卓郎氏/聞き手 藤井聡氏)、②「イスラーム法学者に聞く、『文明』の生命力と『一神教』の理念」(中田考氏/聞き手 川端祐一郎氏)も掲載しています。そして、これまた豪華メンバー(仲正昌樹氏/会田弘継氏/小幡敏氏/金子宗德氏/富岡幸一郎氏)による特集原稿。クライテリオンとしては初めての宗教論、気合を入れて臨みました。
 私自身も、バークとキェルケゴールを肴にした宗教論「大衆的な、あまりに大衆的な――『信仰』なき現代を問う」を寄せていますが、それでも書き足りなかったのか、小幡敏氏の新刊『忘れられた戦争の記憶』(と素晴らしい特集原稿)に刺激される形で、「近代日本人の『信仰』を問う—大岡昇平の『襲撃』をめぐって」 という巻末オピニオンを書いています。分量としては、後者の方が多いくらいですが、要するに、二つも宗教論を書くほどの力の入れようだったわけです(笑)
 それ以外に私が直接関わった仕事としては、與那覇潤氏へのインタビュー「中国化の先に来た『リストカット化する日本』・前編」(聞き手 浜崎)や、哲学者の古田徹也氏をお迎えした座談会「ウィトゲンシュタインと『言葉の魂』をめぐって・後編」(古田徹也氏×藤井聡氏×柴山桂太氏×川端祐一郎氏×浜崎)などがありますが、そのほかにも、期待の新人・首藤小町さんによる寄稿文「無形の霊性――横山大観の絵を見て」や、いつも一緒に読書会をやっている塾生の粕谷文昭氏による古田徹也氏『謝罪論 謝るとは何をすることなのか』の書評、そして、前田一樹氏の江戸思想についてのエッセイなど、塾生関係ページの方も充実しています。是非、手に取っていただければと思います。
 以下、目次を挙げておきます。

目次
【特集インタビュー】
・ザイム真理教という「カルト」による国家破壊/森永卓郎(聞き手 藤井 聡)
イスラーム法学者に聞く、「文明」の生命力と「一神教」の理念/中田 考(聞き手 川端祐一郎)
【特集論考】
・大衆的な、あまりに大衆的な――「信仰」なき現代を問う/浜崎洋介
・どうして「宗教」に接するのを恐れるのか/仲正昌樹
福音派はなぜ政治を動かせるのか――アメリカの「政教分離」が意味するもの/会田弘継
・人は宗教を欠いて戦争を扱い得るか/小幡 敏
仏国土思想から見た日本の国体――その成立と展開/金子宗德
神道指令による「日本人」の解体/富岡幸一郎
【特別座談会】
・アカデミズムとジャーナリズムの連携を探る――学術誌『実践政策学』がめざすもの(前編)/石田東生×桑子敏雄×森栗茂一×藤井 聡
ウィトゲンシュタインと「言葉の魂」をめぐって(後編)/古田徹也×藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎
【アジアの新世紀】
・中国化の先に来た「リストカット化する日本」(前編)/與那覇 潤(聞き手 浜崎洋介
・危機と好機 安岡正篤の場合(第二回)権藤成卿安岡正篤/大場一央
【連載】
・「危機感のない日本」の危機 安全保障と日本人/大石久和
・「農」を語る(第2回)有機農業をめぐる、外圧・グローバル企業とのせめぎ合い/松原隆一郎×藤井 聡
経世済民 虫の目・鳥の目(第5回)今さら聞けない金利と通貨の話/田内 学
・映画で語る保守思想(第8回)戦争が呼び覚ます「運命」の感覚――『ひまわり』を題材に(中編)/藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎
・徹底検証! 霞が関の舞台裏 脱藩官僚による官僚批評(第6回)国家の役割を取り戻せ!(前編)国家機能の溶解を防ぐことはできるか?/室伏謙一
逆張りのメディア論33 「次のジャニーズ事件」防止に必要なもの/松林 薫
・欲望の戦後音楽ディスクガイド(第7回)The Rolling Stones / Hackney Diamonds/篠崎奏平
・東京ブレンバスター⑨ 風に吹かれて――戦争の本質/但馬オサム
・編集長クライテリア日記 令和五年十月~十一月/藤井 聡
【巻末オピニオン】
・近代日本人の「信仰」を問う 大岡昇平の「襲撃」をめぐって 浜崎洋介
【書評】
・『謝罪論 謝るとは何をすることなのか』古田徹也 著/粕谷文昭
・『隣国の発見 日韓併合期に日本人は何を見たか』鄭 大均 著/小野耕資
・『ヴァレリー 芸術と身体の哲学』伊藤亜紗 著/前田龍之祐
・『ユダヤ人の自己憎悪』テオドール・レッシング 著/橋場麻由
・『歴史から学ぶ比較政治制度論 日英米仏豪』小堀眞裕 著/早瀬善彦
【その他】
・無形の霊性――横山大観の絵を見て/首藤小町(寄稿)
アメリカありきの経済安保(鳥兜)
・二〇二四年問題という“馬鹿ばなし”(鳥兜)
新興宗教との関わり方も「国民の伝統」に基づくべし(保守放談) 
・なぜグローバリストは未熟に見えるのか?(保守放談)
・塾生のページ
・読者からの手紙(投稿)
【巻頭言】
 今の日本の政治の腐敗は著しい。一旦政治権力を掌握すると司法を平然と歪めて“しら”を切り通す程に、我が国中枢は腐敗してしまった。
 こうなった背景にあるのが日本における「宗教性の喪失」だ。
 戦後日本では公の場で宗教を語ることそれ自体がタブーとなり、政治においては「政教分離」の趣旨がはき違えられ、政治の現場から宗教性が蒸発し続けた。結果、あらゆる公正・正義が蔑ろにされるに至っている。
 その結果、逆説的にも生み出されたのが統一教会問題であり、虚偽の言説を脅迫に基づいて信者に強要し続けるカルトの様な緊縮財政派の権力中枢における横暴問題、いわゆる「ザイム真理教」問題だ。
 こうした悲劇的状況から我が国を救い出すには、諸外国と同様に、そしてかつての日本の様に、適切なかたちで適切な宗教“性”の復活を試みる他ないのではないか――それが本特集「『政治と宗教』を問う」の趣旨である。本特集が我が国における適切な宗教性の復活に僅かなりとも貢献せんことを、祈念したい。
表現者クライテリオン編集長 藤井 聡

 あと、14年ぶり(!)に寄稿した『江古田文学』のご紹介です。
 特集は「日本実存主義文学」となっていいますが、編者である山下洪文氏(日本大学芸術学部専任講師)の「はじめに」や「編集後記」を読むと、まず、その文学に対する真摯な姿勢に眼が引かれます。山下氏は言います、「生と死を賭さない文学など、文学の名に値しない」、「『多様性』という名のいつわりの楽園が、呻きと叫びを押し殺していたのだ。文学であるものが『時代遅れ』『差別的』の烙印を押され、文学でないものが文学の顔をしてまかり通るこの時代に、それでも文学者であるために、本特集を企画した」と。
 私の寄稿は、「アンケートー実存主義は滅んだか?」に対する回答程度の簡単なものですが(3問で1200字程度)、山下洪文氏の熱意に応えるべく、真剣に書きました。一読いただければ幸いです。
 今の時代に、正面から「実存」を問おうとするその姿勢に敬意を表する共に、『江古田文学』の復活を心から喜びたいと思います。色々あるとは思いますが…、山下先生、応援しています!

追伸
 『江古田文学』を自宅に持って帰ってパラパラとめくっていたら、今更ながら、これ、ほとんど自分の元ゼミ生か、現ゼミ生によって書かれていることに気づきました(笑)。古川、正村、船橋、佐藤、西巻、田口、松川……——学生なのでフルネームは記しませんが——、つくづく世界は狭いですね。
 彼ら、彼女らの知らぬ一面…と言うか、その勉強の成果も確認出来て、個人的に読み応えがありました。よろしければ、是非!