第一特集は、「岸田内閣成功の条件―『新しい日本型資本主義』とは何か」。第二特集は「通巻100号記念 回想・西部邁」となっています。
第一特集に関して言うと、「新自由主義」の象徴である竹中平蔵氏や、水道民営化ビジネスの象徴であるヴェオリア・ジャパンの社長野田由美子氏などを首相直属の会議(デジタル田園都市構想実現会議)のメンバーにしている時点で、すでに「成功の条件」から大きく逸脱しているように見えますが、とはいえ「条件」は「条件」として明示しておく必要があります。その上で、普通に考えれば当たり前の、その「成功の条件」を満たすことが、なぜ、これほどまでに難しいのかを考える必要があります。
また、第二特集は「通巻100号記念」として、『表現者』を立ち上げられた西部先生についての特集になっています。最近、西部邁論を上梓された高澤秀次氏と渡辺望氏のお二人をお呼びして、顧問の富岡幸一郎先生と編集委員の川端祐一郎氏も加わって座談を組んでおります。また、森田実氏に藤井編集長がインタビューした記事も、知られざる「西部邁」の素顔が垣間見えて読み応え十分です。
私個人の仕事としては、今回は、明治に続いて「大正時代」を論じた連載第2回「『自己喪失』の近代史—『教養主義』は、なぜ無力だったのか」1本ですが、それに加えて、前田龍之祐氏による拙著『小林秀雄の「人生」論』(NHK新書)の書評も載っています。一読していただければ幸いです。
以下は、目次となります。よろしくお願いいたします。
巻頭言
【特集1】岸田内閣成功の条件―「新しい日本型資本主義」とは何か
第百代内閣総理大臣に就任した岸田文雄新総理は、総裁選において新自由主義からの転換と「所得倍増」を柱とする岸田ビジョンを打ち出した。
その後の総理就任演説や衆議院選挙にて、これまでの新自由主義に基づく資本主義が株主を過剰に重視するものであり、これが格差と分断をもたらしたと指摘しつつ、かつ我が国に存在していた「分厚い中間層」を取り戻すべきである、そのために適切な分配と成長の好循環をもたらす「新しい資本主義」を構築すべきなのだと強調した。
こうした岸田ビジョンに、貧困化と将来不安に苛まれてきた大方の国民は大いに賛同するに違いない。しかし問題は、そうした「新しい資本主義」を、我が国「日本」の固有性を十二分に踏まえた上で構築することが、本当にできるのかという点にある。
ついては本特集では、あるべき「新しい日本型資本主義」の形を改めて多面的に論じつつ、岸田内閣の「成功の条件」を改めて掘り下げる特集をここに企画した。【特集2】通巻100号記念 回想・西部邁
本誌『表現者クライテリオン』がその前身誌『表現者』を引き継ぐ形で創刊された2018年、その創刊号がまさに校了するその日に、その前身誌『表現者』の創刊者、西部邁先生がこの世を自ら去った。その『表現者クライテリオン』が今回の号で『表現者』からちょうど通巻100号目。
その100号16年の間、我が国日本が物心両面において衰弱し続ける中で本誌の言論活動が未だに旺盛に展開し得ているのはまさに、西部邁先生の保守すべきを保守せんとする「意」の賜である。ついてはこの通巻100号発刊の機に改めて、西部邁先生を読者各位と共に回想するささやかな機会をここに設けることとした。現役時代の西部邁先生の活躍をご存じの方もそうでない方もぜひ本特集にお目通しいただき、本誌言論の原点」に改めてお触れ願いたいと思う。表現者クライテリオン編集長 藤井 聡
●目次
☆【特集1】岸田内閣成功の条件―「新しい日本型資本主義」とは何か
[対談]
「新しい資本主義」の原点/岸田文雄×藤井聡
公益資本主義が日本を救う――株主資本主義を乗り越えて/原丈人×藤井聡
なすべき「財政政策」とは何か?――単年度PB主義を乗り越えよ/高市早苗×藤井聡・新自由主義的「無力感」から抜け出すために/柴山桂太
・日本企業は新しい資本主義の担い手となりうるのか?/宮本光晴
・食料自給率低下は国家存亡の危機――国産振興に思い切った財政出動を/鈴木宣弘
・シンプルな政策こそが経済安全保障の第一歩である/森永康平
・経済政策は日本文化とのすり合わせを考えよ/坂本慎一
・「新自由主義からの転換」、「新しい資本主義」を看板に偽りありとさせないためになすべきこと/室伏謙一
・「新しい日本型資本主義」のカギは「イノベーションの民主化」にあり/岩尾俊兵
・日本人に憲法を変える覚悟はあるのか/小幡敏☆【特集2】通巻100号記念 回想・西部邁
[座談会]
西部邁が追い求めたもの――非行、同盟(ブント)、散文的健全性/高澤秀次×渡辺望×富岡幸一郎×川端祐一郎
[対談]
西部邁の原点を考える――“若き経済学者"としての顔/森田実×藤井聡・消費社会批判から大衆社会批判へ――西部流保守主義の「原点」を探る/田中孝太郎
☆【連載】
・「危機感のない日本」の危機――城塞都市カルカソンヌの都市封鎖/大石久和(巻頭)
・「教養主義」は、なぜ無力だったのか/浜崎洋介(「自己喪失」の近代史)
・孤高の哲人、アーヴィング・バビット Part3――バビットの価値規範と指導者論/伊藤貫(欧米保守思想に関するエッセイ)
・マルクスの亡霊たち――霊的な力と弁証法1/富岡幸一郎(虚構と言語 戦後日本文学のアルケオロジー)
・浅草吉原遊郭とバベルの塔――共同体の分裂と融合/竹村公太郎(地形がつくる日本の歴史)
・反出生主義 死者と生者の間に/平坂純一(保守のためのポストモダン講座)
・純潔か、野蛮か?――リベラルの不寛容さについて/川端祐一郎(思想と科学の間で)
・「寒冷化」には備えなくていいのか?/松林薫(逆張りのメディア論)
・「反動」と「常態」――ナショナリズムの「二つの顔」――愛着と忠誠の政治哲学序説㊁/白川俊介(ナショナリズム再考)
・俳諧と女性の平等――言葉から考える11/施光恒(やわらか日本文化論)
・生命の誕生という「保証のない旅」――金原ひとみの『マザーズ』を読む/仁平千香子(移動の文学)
・編集長クライテリア日記/藤井聡
・メディア出演瓦版/平坂純一☆【書評】
『小林秀雄の「人生」論』浜崎洋介 著/前田龍之祐
『バタイユ エコノミーと贈与』佐々木雄大 著/篠崎奏平☆【その他】
・地方において保守思想の普及を目指す信州支部の挑戦(表現者塾信州支部活動レポート)
・デジタル植民地になった日本/滅び去る他なき、政治への関心を失った国民国家(鳥兜)
・支離滅裂な給付政策/「PB黒字化目標」が日本の政治家への信頼を破壊した(保守放談)
・読者からの手紙