批評の手帖

浜崎洋介のブログです。ご連絡は、yosuke.khaki@gmail.comまで。

『表現者クライテリオン』最新号(過剰医療批判)のお知らせと、一身上のご報告

 ここのところバタバタしていて、告知が遅れてしまいましたが、『表現者クライテリオン』(2023年11月号)が発売になりました!
 今回の特集は「『過剰医療』の構造――病院文明のニヒリズム」です。が、誤解いただきたくないのは、これは一人一人の「お医者さん」に対する批判ではなく、過剰医療の構造=システム批判を意図したものだということです。もちろん、コロナのバカ騒ぎを見れば分かるように、そのシステムに「お医者さん」が関係していないとは言えないので、少しは耳が痛いことも書いてはいますが、だからといって医療を否定しているわけではないのでお間違いなきよう。
 ちなみに、私も①「人間のための医療か、医療のための人間なのか?――『過剰医療』批判序説」という論考を寄稿しています。私の実感を述べさせてもらえば、「医者」も「患者」も、この「過剰医療の構造(医療の薄利多売)」の犠牲者だというもの。その背景には、医療という公共的性格が強い業界に私的な経済原理をもちこんでしまっていること、そして、その矛盾を近代の「生政治」が蓋をしてしまっているということなど色々とあるんですが、最終的には、「生命至上主義」くらいしか価値を語れなくなってしまった戦後日本人の堕落とニヒリズムがあると言っていいでしょう。
 その点を明らかにすべく、今回も、お医者さんから社会学者まで、様々な方から原稿を頂いております。是非、〈過剰医療の構造=ニヒリズム〉とその克服の仕方について、特集の方で確かめていただければと思います。
 そのほか私が関わった仕事としては、【特別座談会】「ウィトゲンシュタインと『言葉の魂』をめぐって・前編」(古田徹也×藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎)、③「映画で語る保守思想 第7回:戦争が呼び覚ます「運命」の感覚――『ひまわり』を題材に・前編」(藤井聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎)、④「アジアの新世紀:保守から考えるアジアの近代――福田恆存の「韓国論」を手がかりに(第三回・「保守的アジア主義」を目指せ」(藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎)などがあります。
 特に今回、古田徹也先生とのウィトゲンシュタイン座談は、めちゃめちゃスリリングでした。ご一読いただければ幸いです。以下は、巻頭言と目次になります。

【巻頭言】
我々にとってなくてはならない「医療」。しかし、それが「過剰」な水準に達した場合、逆説的にも我々に様々な「被害」がもたらされることになる。薬の過剰摂取は体に毒であるし、健康に配慮しすぎて味気ない暮らしになれば我々の幸福が大きく棄損する。さらには過剰医療が加速すれば、医療費の肥大化に恐れをなした政府が過度に緊縮的になり、その結果経済が疲弊していくということにもなる。
 こうした過剰医療の背後にあるのが生命至上主義という名のニヒリズム虚無主義)だ。このニヒリズムと拝金主義者が結託し、生命至上主義を言い訳にして過剰医療を加速させつつ効率的に患者達と政府から大量のマネーを吸い上げ続けるという詐称的システムが、今の日本の医療界において構築されてしまっている。
 本特集では、こうした状況はもはや「病院文明」と呼ぶに相応しいものに堕落した文明状況であることを描写しつつ、そこで横行する過剰医療の恐るべき不条理を明らかにすると共に、その超克の術を考える。
                      表現者クライテリオン編集長 藤井聡
【特集】
「過剰医療」の構造――病院文明のニヒリズム
【特集座談会】
・生を蝕む「病院文明」に抗うために/森田洋之×大脇幸志郎×藤井 聡
【特集論考】
・人間のための医療か、医療のための人間なのか?――「過剰医療」批判序説/浜崎洋介
・ウイルス学者から見たコロナ対策の異常さ/宮沢孝幸
・なぜ秀才たちは鬼化して人間を喰うのか――HPVワクチン接種被害とそれへの一部フェミニストの加担を問う/井上芳保
・セキュリティ技術が支配する社会――生活に浸透する“生政治”/美馬達哉
・〈自己の死〉と向き合わなければ医療は腐敗する――薬学倫理の視点から見える「致命的な欠点」/松島哲久
・医療を蝕む「利益第一」主義の実態――ベテラン医師がその諸相を描く/武久洋三
・近代医療は人を幸せにするのか/木村盛世
・過剰医療研究をより良い医療に生かすために/冨永晃輝
【特別座談会】
ウィトゲンシュタインと「言葉の魂」をめぐって(前編)/古田徹也×藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎
【連載】
・「農」を語る 第1回 有機農業の意義を問い直す/松原隆一郎×藤井 聡
・映画で語る保守思想 第7回 戦争が呼び覚ます「運命」の感覚――『ひまわり』を題材に(前編)/藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎
・「アジアの新世紀」
  〔企画始動記念座談会〕保守から考えるアジアの近代――福田恆存の「韓国論」を手がかりに(第三回)「保守的アジア主義」を目指せ/藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎
   危機と好機 安岡正篤の場合(第一回)近代日本の矛盾/大場一央
・「危機感のない日本」の危機 「超」がつくほどに無知で無能な政治が続く/大石久和
・虚構と言語 戦後日本文学のアルケオロジー第二十九回 マルクスの亡霊たち 日本人の「一神教」理解の問題点/富岡幸一郎
経世済民 虫の目・鳥の目 第4回「貯蓄から投資へ」お金を回すだけでは経済は成長しない/田内 学
・徹底検証! 霞が関の舞台裏 脱藩官僚による官僚批評 第5回 政治の役割を再認識せよ――政治が決断すれば霞が関はこれに従う/室伏謙一
逆張りのメディア論32 新聞記者に足りないのは営業経験だ/松林 薫
・欲望の戦後音楽ディスクガイド 第6回 Radiohead / Kid A/篠崎奏平
・東京ブレンバスター8 バルタン星人と犍陀多 現代移民考/但馬オサム
・編集長クライテリア日記 令和五年八月~九月/藤井 聡
【巻末オピニオン】
・米中対立は「新しい冷戦」ではない/柴山桂太
【書評】
・『武器としての「中国思想」』大場一央 著/小野耕資
・『戦後日本政治史 占領期から「ネオ55年体制」まで』境家史郎 著/前田龍之祐
・『ニホンという病』養老孟司名越康文 著/篠崎奏平
・『「経済成長」の起源 豊かな国、停滞する国、貧しい国』マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン 著/早瀬善彦
・『ハチのいない蜂飼い』西村玲子 著/橋場麻由
【その他】
・深刻化する下請収奪の問題/高平伸暁(寄稿)
・太古の知を訪う/首藤小町(寄稿)
・「運命」を取り戻すために――産業技術社会の「まやかし」に抗して(鳥兜)
・脅威を「忘れる」ことの価値(鳥兜)
ジャニー喜多川の「性犯罪」――「全き被害者」などいるのか(保守放談)
・株価より賃上げを(保守放談)
・悲観と楽観に二極化する「原発論議(保守放談)
・塾生のページ
・読者からの手紙(投稿)


 あと、雑誌のプロフィール欄を変更したのに、告知しないのも不自然なので書いておくと、今年の10月から、私の所属と職名が「京都大学経営管理大学院・特定准教授」になります。この決断には色々思う所もあり、迷いもしたんですが、結果的にこういうことになりました。しかし、決断したからには、全力でこの機会を生かして行きたいと思っています。
 まだ東京の方に残している仕事があるので、しばらくは東京と京都を往ったり来たりになるかと思いますが、来年の1月からは完全に家族で京都に移り住むことになります。人生初めての就職で慣れないことばかりですが(笑)、引き続き「物書き」は続けますので(むしろ、そのための就職なので)、何卒よろしくお願いします!