批評の手帖

浜崎洋介のブログです。ご連絡は、yosuke.khaki@gmail.comまで。

「浜崎洋介」(安倍器論)に対するデマに対する回答と、別冊クライテリオン『「中華未来主義」との対決』

 これは最近知人から聞いて知ったんですが、今、ツイッターでは、「安倍器論というのは、中島岳志さんが言っていたことを、後から浜崎がパクっただけだ」という「デマ」が飛び交っているとか(私自身は、「ネットいなご」が群がるツイッターという「大衆メディア」が大嫌いなので、必要な時以外は見ないようにしているのですが……)。もし、それが本当だったらいつでも腹を切ると同時に、その「デマ」が酷くなるようだったら対処を考えます。
 しかし、少し落ち着いて考えてみれば、すぐにこれが「デマ」だということは分かるはずです。もし、私がパクっていたとしたら、そもそも、なぜクライテリオンの「安倍晋三―この空虚な器」の特集座談会に、そのパクられた当人の中島岳志さんが気持ちよく出てくれているんですか?(…というか、もし、私がパクっていたとしたら、私が中島さんを座談に呼ぶはずがないでしょう)。さらに、座談会冒頭で、藤井聡編集長が「この仮説は、本誌編集委員浜崎洋介さんがあるTV番組で強調されていたもので…」と説明したとき、なぜ中島岳志さんが一切何も反論していないんですか? そして、なぜ中島さんは、その後もクライテリオンに出続けてくれているんですか?(今号でも、中島さんは座談に出て下さいましたが、その際もいい議論ができました。)
 この3点だけでも、もう反論するのもバカバカしいくらいの話だということが分かると思います。
 が、”そもそも論”で言えば、「安倍器論」如き、曇りない眼で安倍首相を観ていれば誰でも思いつくレベルの話で、私の仮説が取りざたされたのは、それが「右」のチャンネル桜で言われたのが珍しかったということと、そのネーミングが分かり易く、だから流通したということ以上でも以下でもないでしょう(しかも、その流通だって一部のホシュ業界に限っての話です)。だから本来なら、こんなものを、わざわざ文芸批評家が、「自分の仮説だ!」なんて言い募ること自体が物凄く恥ずかしい話でしかありません。ただ、「パクった」というのは名誉にかかわる話なので、ここで真正面から否定させていただきます(そもそも中島岳志さんにも失礼です)。
 しかし、つくづくデマとウソの蔓延る「ポスト・トゥルース(真実後)の時代」です(しかも、卑怯なことに匿名で!)。こういう「何とでも言えるデマ」に、一々対処しなければならないと考えると本当にウンザリしますが、しかし、それだけ受動性(ルサンチマン)の強い時代なんでしょう。こっちも覚悟しなければなりません。

 あと、ついでに、別冊クライテリオン『「中華未来主義」との対決』が出ました。
 内容としては、以前『クライテリオン』で特集した、「『中華未来主義』との対決」(2020年5月)や「抗中論―超大国へのレジスタンス」(2021年3月)にくわえて、今年の7月に東京千代田区の星稜会館で行われたシンポジウム「中国・ロシアのプロパガンダ戦略に対抗する―日本のパブリックディプロマシーを確立せよ」(桒原響子氏、佐藤優氏、伊藤貫氏、藤井聡編集長)の基調講演やパネルディスカッション(こちらは未発表です!)を再編集して載せています。その意味では、これまで『クライテリオン』が取り組んできた「中国論」の総決算のような趣になっています。
 特に最初の「『中華未来主義』との対決」という特集が出たのは、丁度コロナ自粛が始まった頃で、書店に並んだ雑誌がほとんど動かなかったと聞いています(動きはネットだけだったみたいです)。そこで見逃してしまった方は、是非、手に取って頂ければと思っています――「嫌中論」に飽き飽きしている人には、いい思考材料になるはずです。
 
 また私自身は、與那覇潤さんを呼んで行った座談会「ポストコロナー中国化する世界」や、論考「『機械化』のネクロフィリアー未来主義とその周辺」、くわえて文学座談会「現代中国の想像力を読む―劉慈欣『三体』をめぐって」などに関係しています。一年前の仕事ですが、読み直してみて全く古びていないどころか、やっぱり、ここで指摘していた事態は、より酷くなって実現してしまっているというのが正直な感想です(コロナ後のデジタル監視社会化=リモート化、尖閣問題、そして、デマとウソも含めて…)。
 以下は、巻頭言の一部と、目次となります。何卒、よろしくお願いいたします。

『加速主義と超近代主義 我々人類の未来は中国にこそあるのか! ?』

近年、欧米社会では急速にその国勢を拡大・膨張し続ける中国の脅威に対する危機感と並行して、ある種の「憧憬」、すなわち、「中国にこそ、我々人類の未来の姿があるんじゃないか」という気分が急速に広まりつつあります。こうした気分、ないしは考え方は今「中華未来主義」、サイノ・フューチャリズム(Sinofuturism)と呼ばれ始めているのですが、これは俄に我が国日本でも広がりつつあります。
本特集は、地政学的に中国の影響から逃れることが困難な我が国日本において、この中華未来主義といかに対峙し、「対決」していくべきかを考えようというものです。
あるいは、人間の生や実存というものの「正反対」にある概念として中華未来思想があると定位し、徹底的に「批判的」に論じていこうとするものです。
こうした批判によって、「中華未来主義」の輪郭がより明確なものとなり、その上で、我々が現代人として、そして日本人として、歴史的地政学的な現実にしっかりと向き合いながら、今後の進むべき道が指し示されることになるのではないかとの期待に基づいて、この特集が企画されたわけですし

表現者クライテリオン編集長 藤井聡 (はじめにより一部抜粋)

◇目次
■はじめに 「中華未来主義」とは何か? /藤井 聡
●第1部 ポストコロナ 中国化する世界/與那覇潤、藤井 聡、柴山桂太、浜崎洋介、川端祐一郎
●第2部 本当の中国を知らない日本人
・東アジアの中国と日本/岡本隆司 [聞き手]藤井 聡
●第3部 新たな「形態」としての中国
・没落する西洋と躍進する中国/木澤佐登志
・「機械化」のネクロフィリア ――「未来主義」とその周辺/浜崎洋介
中央アジアに見る中華「現在」主義/宇山智彦
共産党支配をめぐる思想闘争――現代中国における「新権威主義」体制から「新全体主義」体制への移行/石井知章
・敗北を招いた日本の対中平成外交――中国の地政学的な長期戦略をなぜ見抜けなかったか/遠藤 誉
・再考すべき日本の島嶼防衛――迫り来る中国の脅威に備えて/山田吉彦
・現代中国に見る「商鞅の変法」――富国強兵の要諦は厳罰主義と愚民化政策にある/橋本由美
・東アジアの「戦争」は始まっている/柴山桂太
●第4部 現代中国の「想像力」を読む
[文学座談会] 劉慈欣『三体』をめぐって/富岡幸一郎、藤井 聡、柴山桂太、浜崎洋介、川端祐一郎
●第5部 中国のプロパガンダ戦略に対抗する
・世論をめぐる中国のパブリック・ディプロマシーの裏表/桒原響子
・日本にパブリック・ディプロマシーは可能か? /伊藤 貫
・日露からみたパブリック・ディプロマシーの功罪――日本の広報外交を確立せよ/佐藤 優
[パネルディスカッション]日本はいかにして自主独立を目指すべきか/桒原響子、伊藤 貫、佐藤 優、藤井 聡