批評の手帖

浜崎洋介のブログです。ご連絡は、yosuke.khaki@gmail.comまで。

「すばるクリティーク賞」が創設されました!

すばる2017年2月号

すばる2017年2月号

 2015年から始まった『すばる』の「批評特集」も今年の2017年で最後になります。しかし、それは同時に次の「批評」の始まりでもあります。というのも今年の特集「批評の未来2017」は、「すばるクリティーク賞」(大澤信亮氏+杉田俊介氏+中島岳志氏+浜崎が選考委員)創設発表の場でもあるからです。詳しいことは『すばる』二月号掲載の、四人での共同討議「来るべき新人へ―すばるクリティーク賞創設」を読んでいただければと思いますが、この度設けられた「すばるクリティーク賞」が、これまでにない野心的な「批評賞」であることは間違いありません。それは、既に出来上がった人間がまだ未完の人間を評価するものであると言うよりは、お互いがお互いに「文学」と「批評」を支え合い、また批判し合う同志を見つけ出すためにこそ創設された「賞」だからです(そのため、選考委員自らが下読み段階から原稿に目を通し、選考過程を公開し、受賞者には「賞金」ではなく私たちと同じ原稿掲載料が支払われます)。もちろん、それが成功するかどうかは、これからの私たちの努力と、「批評の未来」を担っていく若い書き手の才能とやる気次第といったところですが、少なくとも、「批評の精神」を引き継ぐための器だけは用意したつもりです。小林秀雄に始まり、保田與重郎中村光夫福田恆存を介して、吉本隆明江藤淳や秋山駿や柄谷行人までを貫く批評文学の営みを担う覚悟のある若い書き手を待っています。奮ってご応募ください!

 ちなみに、サブカルチャーについて多く書かれている杉田さんや、政治思想が専門の中島さんが選考委員に加わっていることでも分かると思いますが(ちなみに、私自身も文芸誌と論壇誌を往還する身ですが)、「すばるクリティーク賞」は細かいジャンル分けには拘りません。ただ、書かれた言葉の強度だけが判断材料となります。現在、社会学者と哲学者が選考委員をしている『群像』の新人賞と、東浩紀氏の『ゲンロン』の新人賞しかない状況において、「文芸批評」に対する情熱や実力を持ちながら、なかなか表に出てこられない潜在的な才能=文学者は多いのではないかと思っています。しかも、大学アカデミズムが全く機能していないのであれば、それは尚更のことです。既存の文芸ジャーナリズムや大学アカデミズムの粗い網目では掬い取れない若い才能を発掘するのがこの度の私たちの仕事だと思っています。
 「来るべき新人へ」と題された共同討議の方も、単に賞の概要説明に終っているわけではなく、それ自体読み応えのある四者四様の「批評論」として読めるはずです。一読していただければ幸いです。

 また、それ以外にも2017年の『すばる』の批評特集は、『世界文学の構造』(岩波書店)を刊行したばかりのジョ・ヨンイル氏のインタヴィュ―をはじめ、岡和田晃氏、藤田直哉氏、矢野利裕氏、荒木優太氏の批評競作も掲載されています。それにしても、いよいよ80年代生まれの批評家が紙面の中心を飾る時代となったんですね。選考にも気合が入るというものです。