批評の手帖

浜崎洋介のブログです。ご連絡は、yosuke.khaki@gmail.comまで。

『表現者』76号に「『本気』の欠如について」を寄稿しました+『表現者Criterion』創刊の告知

 今朝、「『本気』の欠如について」を寄稿した『表現者』(76号/2018年1月号)が自宅に届きました。
 この度は、「世界大分裂の中の日本―改憲から核武装まで」と題した特集のなかで書いた原稿になります。「国際協調主義の放棄=米国第一を唱えるトランプ政権が誕生したこの期に及んでの『親米保守』は、それこそ「平和憲法」を前にしたときの反米左派と何ら変わらない思考停止ぶりを、今度は『日米安保』の前で示しているだけではないのか」というのが論の大要です。が、それを江藤淳の『近代以前』や、福田恆存「防衛論の進め方についての疑問」などの過去の言葉を介しながら、その延長線上で、今や「現実主義」の名で保守業界で通用しつつある「加憲論」をも批判している点が取り柄でしょうか。一読していただければ幸いです。

 また、雑誌でも告知していますが、前号での西部邁顧問の引退に伴い、今号までで富岡幸一郎編集長体制での雑誌刊行は一旦区切りをつけ、次号から新たに藤井聡京都大学大学院教授・内閣参与)編集長体制で第二期『表現者』(『表現者Criterion』)を始める予定です。編集体制としては藤井聡編集長のほか、編集委員として社会科学者の柴山桂太氏(京都大学)、長年西部塾(発言者塾)で研鑽を積んでこられた川端祐一郎氏(京都大学)、それに私も参加させて頂く形でのスタートとなります(4人体制)。新参者の私ですが、少しでも力になることができればと思っています。
 詳しくは、藤井聡先生のFB(https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII)をご参照いただければと思いますが、以下に、藤井聡次期編集長による「『表現者criterion』始動のお知らせ」を転載させて頂きます。何卒よろしくお願い申し上げます。

 第二期「表現者」に向けて〜『表現者criterion』始動のお知らせ〜
表現者」criterion編集長
藤井聡京都大学大学院教授・内閣官房参与

表現者におけるreform to conserve
本誌前号(75号・11月号)で宣言されたとおり、雑誌『発言者』を創刊し、その後、その内容をリニューアルして創刊した後継誌『表現者』の編集長、主幹、顧問として健筆を振られて来た西部邁先生がこの度、本誌の執筆活動から引退されることとなりました。
思えば雑誌『発言者』が創刊されたのは、バブルと共に日本社会の様々な秩序が崩壊し始めた25年前の1994年、それが『表現者』に継承されたのは日本社会の崩壊が徹底的に推進された小泉竹中改革のまっただ中の2005年でした。その四半世紀の間、「日本を守る」という言葉の思想的意味、そのための実践的言論の双方の最先端を示し続けたのは、間違い無くこの西部邁先生の『発言者』であり『表現者』でありました。
一方で今、過去四半世紀に及ぶ『発言者』『表現者』の奮闘の歴史の裏側で進行した日本社会の蒸発とニヒリズムの蔓延は、2018年という新しい年においてますます加速しているやに思われます。こうした日本社会があらかた蒸発してしまった現状において何よりも求められている姿勢は、身の回りにあるものを片端から盲目的に全て保守し続けるという態度では無く、例えば保守思想家エドマンド・バークが主張した「reform to conserve」(保守するための改革)を於いて他にありません。
ついては西部先生の引退を受け、reform to conserveの精神を引き継ぎ、本誌表現者の「第一期」を本号で終え、内容と編集体制を刷新した「第二期」を、次号(平成29年3月号)から始めることとなりました。
すなわち「第二期」の表現者では、これまでの「第一期」表現者の中で西部邁先生が表現し続けてこられた保守の精神を継承(conserve)するために、「表現者criterion」という新たな雑誌タイトルの下、その雑誌編集の体制と内容を刷新(reform)いたすこととなりました。

クライテリオン、批評と危機(Criterion, critique & crisis)
新たな雑誌タイトル「表現者criterion」におきますcriterion(クライテリオン)という言葉は「規準」を意味するものです。
私達がこの言葉を雑誌タイトルに選んだのは、あらゆる伝統や秩序が溶解しはじめたこの危機(crisis)の時代に、真剣かつ活力ある評論(critique)を紡ぎ出すには、かつてなら誰もが手触りある形で確認できた暮らしの中の「伝統」が指し示し得たクライテリオン(criterion規準)を探り続けることこそが何よりも求められているからです。言うまでも無く、思想を紡ぐ批評のためにも、危機を乗り越えるための実践を展開するためにも、何らかのクライテリオン無かりせば私達の精神も身体も漂流する他ありません。例えば保守思想家の一人でもあるエリオットは自らが編集する雑誌タイトルをまさに「クライテリオン」と呼称しましたが、言論とはすべからくクライテリオン(規準)を陰に陽に探し求めながら展開すべき営為なのです。
新しい第二期「表現者」においてもこうした認識の下、危機(crisis)の時代の批評(critique)を思想的、実践的に縦横に展開するにあたっての「クライテリオン」(規準)を執筆者のみならず読者も含めて全面的に探し求める活動を展開するための「場」として編集し、公に向かって出版(publication)することを企図しています。
ついては、これまで「保守の本質に立つオピニオン誌」という本誌のサブタイトルも、危機crisisへの対峙と、そのための批評critiqueを徹底的に思想展開せんとするという意志をより明確化した「危機と対峙する保守思想誌」とする事を考えています。

新しい社会、思想、実践運動としての「表現者
編集体制については、西部邁先生よりご指名頂いた当方が編集長を務めると同時に、これまで本誌にて連載執筆を進めてきた文芸批評家の浜崎洋介氏、社会科学者の柴山桂太氏に加え、長年西部塾(発言者塾)で研鑽を積み、本年度より京都大学助教に着任された川端祐一郎氏の四人の編集体制で、雑誌を編集して参ります。これまで編集長をお務め頂いた富岡幸一郎先生には編集顧問をお務め頂くと同時に、これまで西部智子さんが担ってこられた編集実務は筆者らと共に西部塾で学んだ毛利千香志氏が引き継ぐ体制を予定しています。
また執筆者については、これまで『表現者』で執筆頂いた論客の皆様方には引き続き、特集や寄稿、座談会など様々な機会を通して継続的に協力頂く一方、reform to conserveの精神の下、新たな切り口、趣向、執筆陣にて「連載」や巻頭の「扉」の内容を刷新し、雑誌活動を通した「生の全体性の回復」をさらに立体的、総合的に探求することを、新たな編集体制にて企画しております。
さらに、かつて『発言者』では積極的に公募していた「投稿」欄や、『表現者』創刊当時に同じく公募していた「表現者賞」を再始動し、読者も含めた様々な言論、表現活動の活性化を図ると同時に、次代の新たな書き手の発掘を企図いたします。
加えて第二期表現者の『表現者criterion』では、もちろんこれまで通りの紙媒体の「雑誌」内容の充実に全力を挙げると共に、インターネットやラジオ等の様々なメディアもあわせて総合的に活用しながら、裾野の広い社会的、思想的、実践的運動を精力的に展開することを企図しています。雑誌では配信しきれない多面的情報をWEBやメールマガジン等を通して立体的に配信すると共に、ラジオでは当方(編集長)を中心に、編集・執筆関係者を含めて様々なメッセージを発信する番組『週刊ラジオ表現者』(KBS京都、毎週月曜日、午後9時半〜10時)を開始します。その他、MXテレビ等の番組企画や全国でのシンポジウム等、様々な「発言/表現」の展開を企図しています。今、新しい編集体制の下、これまでの執筆者の皆様方の協力も得ながら営為、編集作業を進めているところです。
第二期の表現者となります『表現者クライテリオン』―――『表現者』読者の皆様におかれましては、是非ともご期待願えますと大変幸甚に存じます。保守すべきものがあらかた蒸発しつつあるこの現代においてあらゆる危機と対峙しつつ、読者各位と共に本誌を通して保守のあり方を改めて模索し続けながら真剣に、そして多面的、包括的に発言、表現し続けて参る所存です。
何とぞ、よろしくお願い申し上げます。