批評の手帖

浜崎洋介のブログです。ご連絡は、yosuke.khaki@gmail.comまで。

インフラ特集の『クライテリオン』と、『福田恆存の言葉』(文春新書)の刊行!

 まずは『表現者クライテリオン』最新号のお知らせです。
 今回の特集は「日本を救うインフラ論—今、真に必要な思想」です。
 今年の初めに起きた能登半島地震で、改めて明らかになったと思いますが、私たちの生活と暮らしを守る要に「インフラ」が存在しています。ところが、ここ30年間、「公共事業は無駄」「コンクリートから人へ」といった歯の浮くような軽薄なフレーズと共にインフラ論は無視され続けてきました。ただでさえ、インフラ(下部構造)は、私たちの無意識の内に隠れやすいというのに(私たちの国土に埋め込まれた道路、鉄道、水道、ガス管、電気——それに国土を守る軍事——などの下部構造を意識する機会は少なく、むしろ、その上で私たちは意識活動を繰り広げているのです)、さらにそれを「叩き続ける」という狂気を日本人は示したのです。その結果として、東京一極集中と地方衰退は加速し、需要は下がり続け(デフレと格差拡大)、インフラの老朽化によって生活不安は増していき、国民間の不信と憎悪は蔓延し、国民国家の枠組み(国民の公平性と均衡ある発展)は溶解していったのでした。
 その背景としては、国民国家の主権を否定する「平和憲法の精神」——功利を超えて保持すべき軍隊を否定し、積極財政を否定する精神(財政法4条)——と、その憲法とズブズブに馴れ合ってきた宗教心なき戦後日本人の体たらくがあるわけですが、その絶望的状況に一矢報いるべく取り組んだ特集、それがこの「インフラ特集」ということになります。
 もちろん、「言論」にできることは限られています。が、その限界の自覚において、そこに「筋を通す」ことの倫理を全うすることもできるようになるのです。何に囚われることもなく自由に発言すること、それが「自立した精神」を守ると共に、厳密な「思考」を維持する動機付けを育むことにもなるでしょう。それに頷いていただける方は、是非、本書を手とって、チャンスが巡って来るその時に向けて共に備えていただければと思います。
 以下、詳細に関しては目次を参照いただければと思います(個人の仕事としては、白水先生をお迎えした特集座談会や、與那覇潤氏インタビュー、映画『ひまわり』座談会などに関わっています)。

 我が国の国家的凋落は今やもう、尋常でない水準に達している。そしてその凋落を導いていると言われるデフレや少子高齢化等の諸問題のさらに背景に存在しているのが、社会、経済を支える下部構造「インフラストラクチャー」、すなわち「インフラ」に対する国民的無関心だ。
 我々の社会・経済活動は、全て交通、防災、資源、食料に関する各種インフラの「上」で展開されるものである以上、その下部のインフラが劣化すれば必然的に劣化する。それ故、弱肉強食の競争に晒されている世界各国は可能な限りのインフラ投資に勤しんでいる。ところが現在我が国においてだけはインフラ投資が著しく滞り、その必然的帰結として衰退の一途を辿るようになってしまった。
それにも拘わらず、日本の学界や政界、言論空間の「インフラ」に対する無関心は常軌を逸した水準に達している。かくしてこのインフラに対する国民的無関心こそが、日本国家の激しい凋落の元凶なのだ。
 ついては本誌では、総合的な状況認識に基づく大局的かつ個別具体的なインフラ論を基軸とした地域再生、国家再生プロジェクトを探求する実学的思想を巡る特集「日本を救うインフラ論」を企画する。
表現者クライテリオン編集長 藤井 聡

〔特集〕
日本を救うインフラ論――今、真に必要な思想

【特集座談会】
・「インフラ論」なくして政治は語れず/脇 雅史×西田昌司×藤井 聡
・インフラ論で日本は「明るく」なる/白水靖郎×藤井 聡×浜崎洋介

【特集インタビュー】
・「水道老朽化」と「水不足」に危機感を持て/橋本淳司

【特集論考】
・国土計画と産業政策――戦後体制の最良の部分を蘇らせよ/柴山桂太
・緊縮財政論がインフラを蝕む――貧困化の道を突き進む日本/大石久和
・流域共同体の誕生、崩壊そして再生――分散社会へのインフラ投資/竹村公太郎
・理念・理想なきインフラ政策が導く未来/佐々木邦
・インフラを語ることは、将来の日本と社会のあり方そのものを語ることである/小池淳司
・阪急沿線開発事業にみられる小林一三の思想――真に豊かな国家とは/星山京子
宮本常一のインフラ論――地方の孤立を救う道路啓開論/中尾聡史
・土木バッシング世論の「黒幕」/田中皓介
・「毒」のある意志――日本人の苦手なインフラ思考/川端祐一郎

【特別座談会】
・アカデミズムとジャーナリズムの連携を探る――学術誌『実践政策学』がめざすもの(後編)/石田東生×桑子敏雄×森栗茂一×藤井 聡

【連載】
・「アジアの新世紀」
  中国化の先に来た「リストカット化する日本」(後編)/與那覇 潤(聞き手 浜崎洋介
 危機と好機 安岡正篤の場合(最終回) 日本主義がつくる「アジアの新世紀」/大場一央
  台湾・金門島から考える、東アジアの安定とは/田中孝太郎
・「危機感のない日本」の危機 経営者による日本破壊/大石久和
・「農」を語る(第3回)有機農業は日本再生の第一歩である/松原隆一郎×藤井 聡
・虚構と言語 戦後日本文学のアルケオロジー(第三十回)マルクスの亡霊たち 日本人の「一神教」理解の問題点②/富岡幸一郎
・徹底検証! 霞が関の舞台裏 脱藩官僚による官僚批評(第7回)公共事業悪玉論が日本を自然災害に対して脆弱にした――「財政余力」ではなく「国土強靭化余力」の形成を/室伏謙一
・映画で語る保守思想(第9回)戦争が呼び覚ます「運命」の感覚――『ひまわり』を題材に(後編)/藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎
経世済民 虫の目・鳥の目(第6回)お金の蓄積が将来の備えにならない当然の理由/田内 学
・欲望の戦後音楽ディスクガイド(第8回)Beck / Mellow Gold/篠崎奏平
・東京ブレンバスター⑩ 日本的ダサさが世界をリードする――アバンギャルディ、没個性の個性/但馬オサム
・編集長クライテリア日記 令和五年十二月~令和六年一月/藤井 聡

【巻末オピニオン】
・平和的であれ、暴力的であれ/川端祐一郎

【書評】
・『訂正可能性の哲学』東 浩紀 著/粕谷文昭
・『きみのお金は誰のため』田内 学 著/小野耕資
・『「逆張り」の研究』綿野恵太 著/前田龍之祐
・『食客論』星野 太 著/橋場麻由

【その他】
・(第六回)表現者賞発表
・正統(ショウトウ)とは何か/前田健太郎(寄稿)
・「政治」を失った社会――敗けてしまった国の末路(鳥兜)
・世界を動かす「ありがた迷惑」な思想(鳥兜)
・不確定事実に対する「知らんけど」批判による常識強化(保守放談)
・派閥は保守政治の宿命(保守放談)
・キャンセルカルチャーとしての「派閥解散」(保守放談)
・塾生のページ
・読者からの手紙(投稿)

 あと、『福田恆存の言葉—処世術から宗教まで』(文春新書)が2月20日に刊行されます。私の仕事としては、「はじめに—古びない警句」という短い拙文を寄せていますが、この福田恆存の晩年の講演を纏めて編んだ本は、難易度で言えば、文春学藝ライブラリーに入っている『人間の生き方、ものの考え方』 と並んで、福田の著作のなかではかなり読み易い部類のものです。
 ここから、『私の幸福論』(ちくま文庫)、そして『人間・この劇的なるもの』(新潮文庫)へと歩を進めることができれば、続けて『保守とは何か』『国家とは何か』『人間とは何か』『私の国語教室』なども自然に読めるはずです。
 是非、本書を通じて、最近のイデオロギー保守(立場としての保守)とは違う「生き方としての保守」の味わいを知っていただければと思います(笑)。ちなみに、本書の中で私自身が気に入ったフレーズを引用しておきましょう。

 これは、私の友人の解釈ですが、どうも面白くないことが起こった時に、その理由を自分の外に求める人間——つまり、社会制度が悪いんだとか、あるいは政治家が悪いんだとか、あるいは相手が悪いんだとか——そういうふうに外に求める人間は左翼だと、で、うまくいかない理由を自分に求める人間は右翼だと、そういうふうに右翼と左翼を区別するというのは、これはずいぶんさっぱりしていいなと、私も思ったんです(笑)。そういえば、考えてみると、私なんか右翼で保守反動なので(笑)、これは何でもみんな自分の方に求めちゃう(孟子の言葉に「反りて諸を己に求めよ」というのがある)。表向きはあまりそれはやりませんけどね。それをやると損だから。でも、腹の中では必ず己のことを考える。自分の弱点というふうに見る。自分の力が足りないというふうに見る。

 この言葉に即して言えば、今の保守派は、ほとんど「左翼」とみてよさそうです。コミンテルンが悪い、GHQが悪い、それらの占領政策を鵜吞みにした左翼が悪い、中国が悪い、韓国が悪い、ディープステイトが悪い、ロックフェラーが悪い、ロスチャイルドが悪い……、ちゃんちゃらおかしい。百歩譲って、そいつらが悪いのだとしても、そんな悪い奴らとまともに闘えない日本人の方がよっぽど間抜けなのです。「反(かえ)りて諸(これ)を己に求めよ」(孟子)、いい言葉です(笑)。

明日2月9日(金)19時~、文春ウェビナーで「『保守』と『リベラル』、それぞれを叱る」をやります(+知らない動画)

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 昨日まで風邪で寝込んでいて色々と仕事が滞っているにも関わらず(汗)、明日2月9日(金)19時~、いつもの文春ウェビナーで、與那覇さんと「『保守』と『リベラル』、それぞれを叱る」という対談をやります(…汗)。
 これは、『文藝春秋』でやる新リレー連載〈「保守」と「リベラル」のための教科書〉スタート記念企画ということですが、以下に、文春ウェビナーの紹介文を上げておきます。ご参照ください。

新リレー連載〈「保守」と「リベラル」のための教科書〉スタート記念企画
 月刊「文藝春秋」では、2024年2月号より、文芸批評家の浜崎洋介さんと評論家の與那覇潤さんによるリレー連載〈「保守」と「リベラル」のための教科書〉をスタートしました。

 なぜこのテーマなのか? なぜこの二人なのか?――

 二人の立場をあえて位置づければ、浜崎さんは「保守」で、與那覇さんは「リベラル」。
 しかし、この二人には「共通点」があります。“敵陣”を攻撃する以上に“自陣”に厳しい視線を向けていることです。浜崎さんは、「リベラル」を批判する以上に、自称「保守」の現状を批判し、與那覇さんは、「保守」を批判する以上に、自称「リベラル」の現状を批判しています。

 日本だけでなく世界各国で、「社会の分断」が生じ、「右」と「左」、「保守」と「リベラル」、「エリート」と「大衆」が「不毛な対立」を繰り返しているなかで、二人の言論活動は、本来あるべき「議論」や「対話」を甦らせる試みだと言えるでしょう。

 浜崎さんの初回は、「保守の教科書」として、福田恆存『人間・この劇的なるもの』を取り上げています(2月号)。

 與那覇さんの初回は、「リベラルの教科書」として、安部公房「詩人の生涯」(『水中都市・デンドロカカリヤ』所収)を取り上げています(3月号、2月9日発売、電子版2月8日公開)。

 なぜこの本、この作品なのか。本ウェビナーでは、初回の選書の意図や狙いと、今後、リレー連載をどう展開していくか、その抱負を大いに語っていただきます。ぜひご覧ください。

 どこかで、小林秀雄が「僕は興味のないものはすぐに忘れてしまうし、それに拘りを持つことができない」(大意)みたいなことを言っていましたが、私も全く同じで、「保守業界」に興味も拘りもないので(むしろ軽蔑感を持つことの方が多いかもしれません)、業界の事情には驚くほど通じていませんが、それでも少ない経験で言えることは言っておきいたいと思います。
 ありがたいことに、與那覇さんも、私の「保守思想入門」の連載を含め、今回の文春ウェビナーの企画をnoteの方で紹介してくださっています(↓)。
note.com
 どういう話の展開になるかは、やってみなくては分かりませんが(笑)、ご興味があれば、是非!

 ちなみに、遅れている「保守思想入門」の方ですが、二回目は、もう少しで出ます(今、ゲラを直しています…汗)。しかし、今年は、「戦後史」の本も作ろうと思っているので、どうやって仕事をセーブするかが問題になりそうです。モノを書き始めた頃は、学生や友人との飲みも含めて、仕事を調整することなど考えたこともありませんでしたが、果たしてどちらが豊かな人生なのか...(笑)。いずれにしろ、進みながら何とかやっていくしかありません。引き続き、よろしくお願いします!

追伸
 文春ウェビナーのこの動画を検索していたら、「知らない動画」が出てきたので(おそらく、過去に撮影した動画を再編集したものだと思いますが)、以下に貼っておきます。これ、神経質な人だったら「オレは連絡受けてないぞ、知らぬ間に、何をしてるんだ!」とか言い出しそうですが、大丈夫なのかしらん(笑)。
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『「過剰医療」の構造』出版!

 先日、『「過剰医療」の構造』がビジネス社さんから出版されました!
 これは、クライテリオンでも特集した「『過剰医療』の構造―病院文明のニヒリズム」を再編集・増補して書籍化したものです。つまり、一定期間しか書店に並べられない雑誌という形態ではなく、長く書店に置いてもらい、また、雑誌購読者以外の方にも参照していただけるような形に整えて、改めて「過剰医療問題」を広く読者に訴えたいということで作った本です。
 私自身、「人間のための医療か、医療のための人間か——『過剰医療』批判序説」という原稿に手を入れて再録していますが、何よりの目玉は、やはり、藤井聡編集長書下ろしの「『過剰医療』が今、日本を滅ぼしつつある」でしょう。これを読めば、コロナ騒動時の「過剰自粛」が、何に由来していたのか(一因)も明確に分かるかと思います。
 日本人の国民性として、何かのレールを敷かれると、その上を疑いもせず走り、しかも、途中で方向転換もブレーキも効かないということがままありますが、この世界に類を見ない「過剰医療」もその一例です。歴史の中で培われた「悪癖」は、なかなか厄介ですが、何度か滅びかけるような危機を通じて(あるいは、次が本当に滅ぶ時かもしれませんが…)、時間をかけて治していくしかないのでしょう。滅びの方が早いのか、それとも、私たちの自己修正が間に合うのか。
 まぁ、一度しかない人生、「滅ぶ」と分かっていても努力するしかありませんが(笑)。

 ちなみに、藤井編集長と私以外の執筆者の皆さんは、医療倫理学の専門家を含め、全員医療関係の先生方ですので(執筆者は全員で11人)、学術的な意味も十分あると思います。以下は、アマゾンの宣伝文です。参照いただければと思います。

患者の幸福を考えない、医者と官僚の利権天国。
この国は破綻する!

現場のリアルを知る関係者たちが、
厚生労働省ムラ」の罪を告発。

藤井氏による「特別書下ろし」を加え、
論壇誌『クライテリオン』の大人気特集を書籍化!
ウイルス学者 宮沢孝幸氏と藤井聡氏との特別対談も収録

                                              • -

「過剰医療」問題が隠蔽され続けてきたのは、
100兆円規模にも及ぶ病院や製薬メーカー、
保険会社といった医療関連業界にとって、
それが「不都合な真実」だったからだ。
彼らは医療が過剰であればあるほど、
利益を拡大できるのだ。
しかも彼らは常に、戦後日本を覆う
「生命至上主義」という空疎なイデオロギーで正当化され続けた。
これがあれば、過剰医療の批判者たちを
常に「生命を軽んじる人非人」扱いし、無力化できるからだ――本文より

日本人の「インフラ論」!

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 『表現者クライテリオン』の座談会(藤井聡編集長×白水靖郎先生×浜崎)を撮影した動画です。
 お題は、ほとんどの日本人がその本質を理解していない〈インフラ=下部構造〉論です。私自身、藤井先生や白水先生から、色々と学ばせて頂いていますが、なかでも「インフラ」論は、私自身の「国土」に対する理解を深めてくれた主題です。この対談に手を入れて詳細にしたものを雑誌の方に載せる予定でいますが、まずは「生座談」をということで、ご興味のある方は是非!

『文藝春秋』の2024年2月号から、書評のリレー連載が始まります!

文藝春秋』2024年2月号

 『文藝春秋』誌上で、「『保守』と『リベラル』のための教科書」という隔月のリレー連載(書評)が始まりました。
 「保守」の教科書を扱うのはもちろん私で、「リベラル」の教科書を扱うのは與那覇潤さんですが、初回は、『文藝春秋』だからなのか…、私の方が與那覇さんより一つだけ年長だからなのか…、「保守」側からのスタートになります(笑)。
 で、初回は、やっぱりこれしかないだろうということで、福田恆存『人間・この劇的なるもの』を取り上げました。ちなみに、imidasのWEBページでも、保守思想入門 | 連載コラム | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダスという連載しはじめましたが、それを考えると、今年一杯は徹底的に「保守漬け」になりそうな勢いです(笑)。まぁ一年くらいは、そういう年があってもいいとは思いいますが、ご興味がある方は、お付き合いいただければ幸いです。

「京都大学レジリエンス・フェスティバル」の動画特集

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 先月11日に開催された「京都大学レジリエンス・フェスティバル」(藤井聡編集長総合司会)の動画です。
 ただ、「医療レジリエンス」の回(森田洋之氏×宮沢孝幸氏)だけ、YouTubeではバンされるということで動画が作れませんでしたが(……国家の言論統制を批判するなら、サヨクの皆さんには、是非、YouTube言論統制についてもご議論いただきたいと思います)、その他、放送可能な①「自然災害レジリエンス」(鎌田浩毅氏×白水靖朗氏)、②「経済レジリエンス」(柴山桂太氏×森永卓郎氏)、③「日本のレジリエンス」(辻田真佐憲氏×浜崎洋介)の動画を上げておきます(「日本のレジリエンス」だけ、まだ全編の動画はないようですが、全編版が出来上がり次第、そちらの方をアップしたいと思います)。
 これ、全部聞くのは大変でしょうけど、しかし、聞けば聞くほど、日本の「危機」が頭と身体で分かるようになっています。私自身が勉強させていただいた5時間でした。ご興味があれば、是非。

追伸
 「日本のレジリエンス」の全編バージョンが公開されたようなので、そちらの方と取り換えておきます。よろしくお願いします。

『表現者クライテリオン』と『江古田文学』最新号のご紹介

 バタバタしていて告知が遅れてしまいましたが、『表現者クライテリオン』の最新号が発売になりました!
 特集は「『政治と宗教』を問う――神道・仏教からザイム真理教まで」。今号から表紙デザインがリニューアルされましたが、内容的にも力が入っています。
 まず、宗教学者島薗進先生と施光恒さんを迎えての巻頭座談会「日本人よ、自らの“宗教性”を自覚せよ」(島薗進氏×施光恒氏×藤井聡氏×柴山桂太氏)にくわえて、2つの特別インタビュー①「ザイム真理教という『カルト』による国家破壊」(森永卓郎氏/聞き手 藤井聡氏)、②「イスラーム法学者に聞く、『文明』の生命力と『一神教』の理念」(中田考氏/聞き手 川端祐一郎氏)も掲載しています。そして、これまた豪華メンバー(仲正昌樹氏/会田弘継氏/小幡敏氏/金子宗德氏/富岡幸一郎氏)による特集原稿。クライテリオンとしては初めての宗教論、気合を入れて臨みました。
 私自身も、バークとキェルケゴールを肴にした宗教論「大衆的な、あまりに大衆的な――『信仰』なき現代を問う」を寄せていますが、それでも書き足りなかったのか、小幡敏氏の新刊『忘れられた戦争の記憶』(と素晴らしい特集原稿)に刺激される形で、「近代日本人の『信仰』を問う—大岡昇平の『襲撃』をめぐって」 という巻末オピニオンを書いています。分量としては、後者の方が多いくらいですが、要するに、二つも宗教論を書くほどの力の入れようだったわけです(笑)
 それ以外に私が直接関わった仕事としては、與那覇潤氏へのインタビュー「中国化の先に来た『リストカット化する日本』・前編」(聞き手 浜崎)や、哲学者の古田徹也氏をお迎えした座談会「ウィトゲンシュタインと『言葉の魂』をめぐって・後編」(古田徹也氏×藤井聡氏×柴山桂太氏×川端祐一郎氏×浜崎)などがありますが、そのほかにも、期待の新人・首藤小町さんによる寄稿文「無形の霊性――横山大観の絵を見て」や、いつも一緒に読書会をやっている塾生の粕谷文昭氏による古田徹也氏『謝罪論 謝るとは何をすることなのか』の書評、そして、前田一樹氏の江戸思想についてのエッセイなど、塾生関係ページの方も充実しています。是非、手に取っていただければと思います。
 以下、目次を挙げておきます。

目次
【特集インタビュー】
・ザイム真理教という「カルト」による国家破壊/森永卓郎(聞き手 藤井 聡)
イスラーム法学者に聞く、「文明」の生命力と「一神教」の理念/中田 考(聞き手 川端祐一郎)
【特集論考】
・大衆的な、あまりに大衆的な――「信仰」なき現代を問う/浜崎洋介
・どうして「宗教」に接するのを恐れるのか/仲正昌樹
福音派はなぜ政治を動かせるのか――アメリカの「政教分離」が意味するもの/会田弘継
・人は宗教を欠いて戦争を扱い得るか/小幡 敏
仏国土思想から見た日本の国体――その成立と展開/金子宗德
神道指令による「日本人」の解体/富岡幸一郎
【特別座談会】
・アカデミズムとジャーナリズムの連携を探る――学術誌『実践政策学』がめざすもの(前編)/石田東生×桑子敏雄×森栗茂一×藤井 聡
ウィトゲンシュタインと「言葉の魂」をめぐって(後編)/古田徹也×藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎
【アジアの新世紀】
・中国化の先に来た「リストカット化する日本」(前編)/與那覇 潤(聞き手 浜崎洋介
・危機と好機 安岡正篤の場合(第二回)権藤成卿安岡正篤/大場一央
【連載】
・「危機感のない日本」の危機 安全保障と日本人/大石久和
・「農」を語る(第2回)有機農業をめぐる、外圧・グローバル企業とのせめぎ合い/松原隆一郎×藤井 聡
経世済民 虫の目・鳥の目(第5回)今さら聞けない金利と通貨の話/田内 学
・映画で語る保守思想(第8回)戦争が呼び覚ます「運命」の感覚――『ひまわり』を題材に(中編)/藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎
・徹底検証! 霞が関の舞台裏 脱藩官僚による官僚批評(第6回)国家の役割を取り戻せ!(前編)国家機能の溶解を防ぐことはできるか?/室伏謙一
逆張りのメディア論33 「次のジャニーズ事件」防止に必要なもの/松林 薫
・欲望の戦後音楽ディスクガイド(第7回)The Rolling Stones / Hackney Diamonds/篠崎奏平
・東京ブレンバスター⑨ 風に吹かれて――戦争の本質/但馬オサム
・編集長クライテリア日記 令和五年十月~十一月/藤井 聡
【巻末オピニオン】
・近代日本人の「信仰」を問う 大岡昇平の「襲撃」をめぐって 浜崎洋介
【書評】
・『謝罪論 謝るとは何をすることなのか』古田徹也 著/粕谷文昭
・『隣国の発見 日韓併合期に日本人は何を見たか』鄭 大均 著/小野耕資
・『ヴァレリー 芸術と身体の哲学』伊藤亜紗 著/前田龍之祐
・『ユダヤ人の自己憎悪』テオドール・レッシング 著/橋場麻由
・『歴史から学ぶ比較政治制度論 日英米仏豪』小堀眞裕 著/早瀬善彦
【その他】
・無形の霊性――横山大観の絵を見て/首藤小町(寄稿)
アメリカありきの経済安保(鳥兜)
・二〇二四年問題という“馬鹿ばなし”(鳥兜)
新興宗教との関わり方も「国民の伝統」に基づくべし(保守放談) 
・なぜグローバリストは未熟に見えるのか?(保守放談)
・塾生のページ
・読者からの手紙(投稿)
【巻頭言】
 今の日本の政治の腐敗は著しい。一旦政治権力を掌握すると司法を平然と歪めて“しら”を切り通す程に、我が国中枢は腐敗してしまった。
 こうなった背景にあるのが日本における「宗教性の喪失」だ。
 戦後日本では公の場で宗教を語ることそれ自体がタブーとなり、政治においては「政教分離」の趣旨がはき違えられ、政治の現場から宗教性が蒸発し続けた。結果、あらゆる公正・正義が蔑ろにされるに至っている。
 その結果、逆説的にも生み出されたのが統一教会問題であり、虚偽の言説を脅迫に基づいて信者に強要し続けるカルトの様な緊縮財政派の権力中枢における横暴問題、いわゆる「ザイム真理教」問題だ。
 こうした悲劇的状況から我が国を救い出すには、諸外国と同様に、そしてかつての日本の様に、適切なかたちで適切な宗教“性”の復活を試みる他ないのではないか――それが本特集「『政治と宗教』を問う」の趣旨である。本特集が我が国における適切な宗教性の復活に僅かなりとも貢献せんことを、祈念したい。
表現者クライテリオン編集長 藤井 聡

 あと、14年ぶり(!)に寄稿した『江古田文学』のご紹介です。
 特集は「日本実存主義文学」となっていいますが、編者である山下洪文氏(日本大学芸術学部専任講師)の「はじめに」や「編集後記」を読むと、まず、その文学に対する真摯な姿勢に眼が引かれます。山下氏は言います、「生と死を賭さない文学など、文学の名に値しない」、「『多様性』という名のいつわりの楽園が、呻きと叫びを押し殺していたのだ。文学であるものが『時代遅れ』『差別的』の烙印を押され、文学でないものが文学の顔をしてまかり通るこの時代に、それでも文学者であるために、本特集を企画した」と。
 私の寄稿は、「アンケートー実存主義は滅んだか?」に対する回答程度の簡単なものですが(3問で1200字程度)、山下洪文氏の熱意に応えるべく、真剣に書きました。一読いただければ幸いです。
 今の時代に、正面から「実存」を問おうとするその姿勢に敬意を表する共に、『江古田文学』の復活を心から喜びたいと思います。色々あるとは思いますが…、山下先生、応援しています!

追伸
 『江古田文学』を自宅に持って帰ってパラパラとめくっていたら、今更ながら、これ、ほとんど自分の元ゼミ生か、現ゼミ生によって書かれていることに気づきました(笑)。古川、正村、船橋、佐藤、西巻、田口、松川……——学生なのでフルネームは記しませんが——、つくづく世界は狭いですね。
 彼ら、彼女らの知らぬ一面…と言うか、その勉強の成果も確認出来て、個人的に読み応えがありました。よろしければ、是非!