批評の手帖

浜崎洋介のブログです。ご連絡は、yosuke.khaki@gmail.comまで。

「2021・すばるクリティーク賞」、「毎日ナビゲート」、「緊急事態宣言」、「コロナ」その他

すばる2021年2月号

すばる2021年2月号

  • 発売日: 2021/01/06
  • メディア: 雑誌
mainichi.jp

 新年あけまして、おめでとうございます!
 「緊急事態宣言」のせいで、あまりお目出たい新年だと言うわけにはいきませんが、どんなときでも生きていかざるを得ないのが人間です。かつて、D・H・ロレンスは「現代は本質的に悲劇の時代である。〔…)大災害が起り、われわれは廃墟の真っただなかにあって、新しいささやかな棲息地を作り、新しいささやかな希望を抱こうとしている」と『チャタレイ夫人の恋人』の冒頭に書き付けていましたが、今の私たちもまた、「生きて識らなければならぬもの」のうちに「ささやかな棲息地」を見出していかなければならないのかもしれません。いずれにしろ、2021年もよろしくお願いいたします。

 早速ですが、今年は、昨年と違って「すばるクリティーク賞」が出ました!
 受賞作は西村紗知さん(90年生まれ)の「椎名林檎における母性の問題」です。「受賞の言葉」も大変すばらしいもので、久しぶりに、一人で歩いて来た誠実な批評家を選ぶことができたと言う手応えがあります(ちなみに、西村さんは近本洋一さん以来のオールAでの受賞でした)。「文芸批評」にとっては厳しい冬の時代が続いていますが、その意味でも、ますます批評家において問われるのは、この一人で歩く体力だと思われます。選考理由の詳細については「選考座談会」を読んでいただくほかありませんが、西村さんには、是非、書き続けていって欲しいと思います。椎名林檎論、是非一読、よろしくお願いします!

 あと、新年初の「毎日ナビゲート」では、「『内憂外患』の新年に思う」と題して、この一年の先行きの見えなさについて論じていますが、この記事を書いた直後に入ってきたのが、まさに、その「先行き」を暗くする「緊急事態宣言」のニュースでした(限界もありましたが、ゲラ段階で、緊急事態宣言のことについて少し付け加えておきました)。
 
 それにしても、去年から今年にかけてのコロナ騒動のなかで、受動性に晒された「大衆」の頑迷さと、それに掉さす「権力者」(小池、吉村、菅)の意地汚らしさと、それを前にああだこうだとイマギナチオ(錯覚的表象)をまき散らす「専門家(と、その言葉を妄信する知識人)」(8割おじさん=西浦etc…)の軽佻浮薄ぶりを見るにつけ、現代日本人への信頼感を根こそぎにされる思いがしました。
 反発を覚悟で書きますが、コロナによる日本人の死者数は現在、100万人あたり28人。それに比べて、イタリアは1262人、英国は1126人、アメリカは1079人!、総数で言っても、アメリカの100分の1、ヨーロッパの優等生ドイツの10分の1です(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/)。しかも、その死亡平均年齢は80歳前後で(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)、その数は毎年のインフルエンザによる死者数とほぼ同じかそれ以下(関連死を入れるとインフルの死者は1万~4万とも/https://president.jp/articles/-/33053?page=1)。いや、コロナに罹った80代でさえ、その約7割は治っており、病床の運用を柔軟に機動化するか、感染症指定を現在の「2類」から「5類」にするだけで「医療崩壊」の危機は回避できるのに(事実、日本は世界一の病床数=英米の実に4、5倍!を持っているにもかかわらず、コロナ対応で使われているのは全病床中のたったの2%!)、それらのことは議論(報道)されずじまいで「補償」なき「緊急事態宣言」に踏み切るというのだから、もう一切の「常識」は政府に通じないものと覚悟した方がいいのかもしれません。
 いや、一万歩譲って、現状の体制のままで「医療崩壊」を防ぐと言うのなら、まずは「重症化」しやすい老人と基礎疾患者の自粛、あるいは宴会の自粛などを優先すべきでしょう。そのような段階的な措置もない8時以降の一律自粛など、たいした感染予防効果も期待できない上に、いたずらに飲食店(と、それに連なる小売業種)を傷つけるだけで全く意味がない――満員電車が大丈夫なのに、なぜ、牛丼屋や、カレー屋や、ラーメン屋や、定食屋で感染拡大していくと考られるのか?――この際、ハッキリ言いましょう、この生活者を殺し続ける菅政権は一刻も早く倒さなければなりません。
 事実、昨年の夏以降、日本の自殺者数は上昇し続けており、それは、すでにコロナ死者数を上回っています(https://news.yahoo.co.jp/articles/468823530bb795058b5d12e78a29eb6889f409c1)。しかも、このままでは3月、4月にかけて中小企業・飲食店の倒産が相次ぐでしょうから、自殺者数の増加は抑えが効かなくなるはずです(ちなみに、少子化も異常な形で進んでいます)。つくづく、「馬鹿の一つ覚え」のように「緊急事態宣言やむなし」としか言えないTVメディア・大手メディアの罪は重い。まさに「合理」ではなく「空気」の支配によって敗けた太平洋戦争(大東亜戦争)そのものです(https://diamond.jp/articles/-/259102)―しかも、それを先導しているのが、「戦前」が大嫌いな『朝日』をはじめとした大手メディアだというのも皮肉ですが(もちろん、『産経』もですが…)。
 「歴史」を他人事として切り捨てた民族は、過去に学べないがゆえに、何度失敗しても懲りないのでしょう(はぁ…)。

「菅義偉論」を特集した『表現者クライテリオン』の最新刊(2021年1月号)が出ます!

表現者クライテリオン 2021年1月号

表現者クライテリオン 2021年1月号

  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: 雑誌
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  藤井編集長の動画にもあるように(ちなみに、今回は、私もちょろっと動画に出ていますー笑)、「菅義偉論―改革者か、破壊者か」を特集した『表現者クライテリオン』の最新刊(2021年1月号)が出ます!
 今回は「菅義偉論」が特集ですが、「政策」と言うよりは主に「人物」に焦点を当てた特集になっています。菅氏が緊縮主義者=ネオリベラリスト=改革主義者であることは言うまでもありませんが、では、なぜ彼はそのような「薄っぺらい思想」に憑りつかれてしまったのか? それを、あらゆる角度――彼の生い立ち、東京・横浜での政治家としての「成り上がり」の経緯、政界遊泳の履歴、交友関係などなど――から徹底検証した内容になっています。
 まず藤井編集長が、菅氏と関係のあった政治家(古賀誠氏、亀井静香氏)にインタビューして、佐藤優氏と永田町周辺の「利益システム」について語り合い、政治評論家の森田実氏、評論家の佐高信氏、歴史家の與那覇潤氏、政治ジャーナリストの泉宏氏、政治学者の中島岳志氏に思う存分に「菅義偉論」を書いていただきました。
 私自身も「『菅義偉』とは誰なのか―故郷喪失者のルサンチマンについて」という評論を書いていますが、案外、「書けた」という手応えがあります(笑)。初めての「政治家論」だったんですが、考えてみれば、昔から文芸評論家は「政治家論」を書いてきたという伝統があり、なるほど「人物論」というのは、小説を読んできた身(あるいは、そこで育った身)としては、これほどシックリくるものもないのかもしれません。これまで政策論・思想論・現象論を『クライテリオン』で多く書いてきた自分ですが、今回の原稿は新境地です。一読していただければ幸いです(ちなみに以前、「安倍器論」というのを書きましたが、あれは人物論というよりは、現象論のつもりで書きました)。

 また、今、「自衛官とは何か」を連載している(今号では第三回「”生きたい”と死にたくない”―我々の国は、私の国」を掲載)磯部精僊さんに、拙著『三島由紀夫―なぜ死んでみせなければならなかったのか』(NHK出版)の書評「表情なき怪物、三島由紀夫」を書いていただきました。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。心のこもった書評、ありがとうございます!
 以下は、今号の巻頭言と目次となります。

目次
巻頭言

安倍総理の後任として総理の座を射止めた菅義偉氏。世間は約八年ぶりの新総理誕生を大いに歓迎した。
東北出身であることや無派閥であること等が、その「令和おじさん」の総理就任の歓迎ムードをもり立てた。
ただし、日本が置かれた現実は今、戦慄を覚える深刻な状況にある。長引くデフレ不況下で襲来したコロナ禍、
米国では新大統領が誕生する中、そのコロナ禍で一人勝ち状況にある隣国中国はその覇権的野心をさらに激化
させている。こうした状況下では総理の差配は日本の命運に文字通り直結する。
 
 本誌ではこうした認識の下、日本の命運を握る人物となった「菅義偉」という人物が一体如何なる政治家なのか、
そして彼はこの政権で一体如何なる政治を行おうとしているのかを、支持や批難の枠を超えて多角的、多面的に
論ずる特集「菅義偉論」を企画した。彼が言う「改革」は国益に適うものなのか、それとも単なる破壊に終わるのか
――読者各位が是非、じっくりとご吟味願いたい。
                                表現者クライテリオン編集長 藤井 聡

特集 菅義偉論――改革者か、破壊者か

【連載対談】
永田町、その「政」の思想(第1回)「菅政権」システム論/佐藤 優×藤井 聡

【編集長インタビュー】
古賀誠氏に聞く――「菅改革」は保守たり得るのか?
亀井静香氏に聞く――菅義偉 自ら光を出せない「月の政治家」
政治記者鈴木棟一氏に聞く――「改革者」菅義偉の源流

【特集論考】
菅義偉は力ずくの政治を改めなければ破壊者になる/森田 実
菅政権は半グレ政権――欠陥だらけの権力者の運命はいかに/佐高 信
菅義偉」とは誰なのか――故郷喪失者のルサンチマンについて/浜崎洋介
理念より実利優先の超現実主義者――改革志向の原点は「エリート」への反発/泉 宏
中抜きの宰相?――政治家・菅義偉考/與那覇
菅首相を保守の友とすることはできない/中島岳志

【新連載】
保守のためのポストモダン講座(第1回)西部邁ポストモダン/平坂純一

【連載】
基本法を改正できない危機/大石久和(「危機感のない日本」の危機)
アベノミクスを振り返り、スガノミクスに願うこと/森永康平(アベノミクスの失敗)
保守派Ⅲ――「覇権による安定」理論/伊藤 貫(国際政治学パラダイム
三島由紀夫「私の中の二十五年」を読む/富岡幸一郎(虚構と言語 戦後日本文学のアルケオロジー
宗教や戦争は自殺を減らすのか?――デュルケムの誤認と慧眼/川端祐一郎(思想と科学の間で)
郷愁と伝統/柴山桂太(「常識【コモンセンス】」を考える)
移動の自由がもたらす「リベラル・ディストピア」――「移動せずともよい社会」を目指して(三)コスモポリタニズム批判㊃/白川俊介(ナショナリズム再考)
国民の分断と言語教育――言葉から考える⑥/施 光恒(やわらか日本文化論)
戦国のアウトバーン――日本最初の運河・小名木川の謎/竹村公太郎(地形がつくる日本の歴史)
記憶なき場所に故郷を探す――小林勝の「フォード・一九二七年」を読む/仁平千香子(移動の文学)
マスコミが「保守」になり得ないわけ/松林 薫(逆張りのメディア論)
“生きたい”と“死にたくない”――我々の国は、私の国/磯邉精僊(自衛官とは何者か)
日本の政府と財界は、フランスの移民政策の失敗に学ぶべし/ブルーノ=ゴルニッシュ国民連合・前全国代表(後半)聞き手:及川健二(フランス保守論客インタビュー)
メディア出演瓦版/平坂純一
編集長クライテリア日記――令和二年九月~十一月/藤井聡

【書評】
三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』浜崎洋介 著/磯邉精僊
自衛隊は市街戦を戦えるか』二見 龍 著/篠崎奏平
『愛するということ』エーリッヒ・フロム 著/薄井大澄
ベートーヴェン 巨匠への道』門馬直美 著/佐藤慶

【その他】
領土を奪われる幼児国家日本/「遊び」を罰するな(鳥兜)
RCEPは誰のための協定なのか/滅びゆく日本――三島由紀夫没後五十年に思う(保守放談)
読者からの手紙(投稿)

書評と討論

ミセス 2021年 1月号 (雑誌)

ミセス 2021年 1月号 (雑誌)

  • 発売日: 2020/12/07
  • メディア: 雑誌

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師岡カリーマ・エルサムニーさんの書評(『ミセス』2021年1月号)

三島由紀夫 なぜ死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)について、アラビア語講師でコラムニストの師岡カリーマ・エルサムニーさんから書評を頂きました(『ミセス』2021年1月号)。ありがとうございました!

 あと、チャンネル桜の討論2つ……どっちもどっちですが(特に大東亜戦争をめぐる議論が酷かったですが)、正直「ホシュ業界」への怒りと軽蔑が限界に達し始めています。決め打ちの「業界トーク」や「お爺ちゃん介護」で消耗するくらいなら(不真面目で下らないポジショントークに附き合うくらいなら)、自分の本分を全うしようと思い始めました。チャンネル桜さんに恨みはないので、「もう出ない」とは言いませんが、もう少し仕事を選ぼうと思います。
 ますます居場所を失くしてしまいますが…、仕方がないですね(苦笑)。
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没後50年の今日―「毎日ナビゲート」のコラム他、三島由紀夫関係の新聞記事色々…

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 三島由紀夫没後50年目の今日11月25日、『毎日新聞』夕刊の「毎日ナビゲート」に「三島由紀夫が否定した『戦後』」というコラムを寄稿しました。簡単なものですが、戦後において、必ず「三島由紀夫が蘇ってくる理由」の一端について書いています。
 また、下の記事は、三島由紀夫没後50年に因んだ『朝日新聞』の紹介記事(太田啓之氏の記事)ですが、三つの記事の中で、出したばかりの『三島由紀夫 なぜ、死んでみせなければならなかったのか』(NHK出版、三島由紀夫 シリーズ・戦後思想のエッセンス | 浜崎 洋介 | 文学・評論 | Kindleストア | Amazon)と共に私の三島評が紹介されています。私以外の三島由紀夫研究者の方々の言葉も紹介されていて、今の三島由紀夫受容の地平を確かめるのにも便利です。一読いただければ幸いです。
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『新潮』12月号に「『われら』への道」を寄稿しました。

新潮 2020年 12 月号

新潮 2020年 12 月号

  • 発売日: 2020/11/07
  • メディア: 雑誌
 告知が遅くなってしまいましたが、今月7日に発売された『新潮』(12月号)に、「『われら』への道」と題した三島由紀夫論を寄稿させていただきました。
 NHKブックスで『三島由紀夫』を刊行した直後に、またもう一つの三島由紀夫論を書くというのは、正直キツかったんですが(苦笑)、それでも「『われら』からの遁走」というエッセイを新たに導入することによって、「われら」という視点から、改めて三島由紀夫の「宿命」をシャープに描き出すことができたかと思っております。一読していただければ幸いです。
 
 また、先日チャンネル桜さんの三島論の方にも参加させていただきました。ようやく三島由紀夫との距離も納得できたし(自分の中でざわついていた三島の魂を鎮魂できたし)、向こうからお誘いもあったので、今年の11月25日の「憂国忌」は初めて参加してみようかしらん…などと思っています。
 
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『私の人間論―福田恆存覚書』(ビジネス社)が刊行されます!

私の人間論―福田恆存覚書―

私の人間論―福田恆存覚書―

  • 作者:福田 恆存
  • 発売日: 2020/11/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 「『自然と二人きりで存在する」ということ」という長めの解説を書かせていただいた『私の人間論―福田恆存覚書』(ビジネス社)が刊行されます!
 本書は、『福田恆存全集』(文藝春秋・1987-88年刊)の巻末に付された「覚書」と、『福田恆存著作集』(新潮社・1957-58)及び『福田恆存評論集』(新潮社・1966)の巻末に付された「後書」とを合わせ纏めた本になります。詳しいことは「解説」に譲りますが、要するに(また帯にあるように)、福田恆存による唯一の「知られざる自伝」です。
 この「覚書」と「後書」は、『福田恆存 思想の〈かたち〉』(新曜社)を書く際によく参照したものですが、それくらい福田恆存の一貫した「生き方」をクッキリと浮かび上がらせてくれる文章です。思想の方は「後書」で、実人生の方は「覚書」で確かめることができます。知られざるエピソードも満載です。是非、よろしくお願いいたします!

※追補
 ちなみに、今回収録した新潮社の『著作集』と『評論集』の「後書」は、文芸春秋版の『全集』にも、最近刊行された麗澤大学出版の『福田恆存評論集』にも収められてはおらず、古本で探し求めるしかなかったものです(しかも、全巻揃えるのは容易ではありません)。その意味でも、これはお買い得です! 何卒、よろしくお願いいたします。
 

こういうユーモアが、必要ですね。

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大阪市(政令指定都市)解体構想」を「都構想」と言い換えること自体が「詐欺」そのものですが、維新の「言葉遣い」の全てが「詐欺」であることがよく分かる動画です。
 住民投票まで残すところ、本当に、あと一週間です。是非、ご覧ください!