批評の手帖

浜崎洋介のブログです。ご連絡は、yosuke.khaki@gmail.comまで。

河出書房新社から『総特集・福田恆存-人間・この劇的なるもの』が刊行されます!

福田恆存: 人間・この劇的なるもの

福田恆存: 人間・この劇的なるもの

 「大阪都構想」の住民投票も終わり大阪市の存続が決まったこのタイミングで、もう一つ嬉しいニュースです。史上初の福田恆存のムック本『総特集・福田恆存-人間・この劇的なるもの』が、来たる5月22日、河出書房新社から発売されます!
 ついに、福田恆存のムック本が出る時代になりました。隔世の感を禁じえません。思い起こせば、私の最初の本である『福田恆存 思想の〈かたち〉』(新曜社)の元原稿―博士論文を書いていた頃など、人に「ご専門は?」と聞かれて、「えー、あのー、シェイクスピアの翻訳を新潮文庫から出している福田恆存という人物なんですが、ご存知ですか?」と言った感じで紹介するしかなかったものです。あるいは、相手が「福田恆存」という名前を知っていても、「あぁ、あの保守のね」といった色眼鏡で見られることがほとんどでした。悔しかったのと同時に、実は、そのこと自体が本当に信じられなかった。これだけ強度のある言葉が、なぜここまで忘れ去られていたのか、なぜ誰も真剣に向き合おうとしないのか、なぜ「保守派」などという党派性によってのみ処理されなければならないのか。全く意味が分かりませんでした。
 が、ついに、「ここまできた」のです。今は、この快挙を素直に喜びたいと思います。

 
 ちなみに、私も「福田恆存の『実存』―『特権的状態』論をめぐって」という20枚くらいの原稿を寄稿しています。昭和23年に書かれたサルトル論(福田恆存の第一期の最後)と、昭和30年に書かれた『人間・この劇的なるもの』(福田恆存の第三期の最初)を繋ぐ問題意識を描き出そうとした評論となっています。また、以前『図書新聞』に掲載された中島岳志さんと私との対談「今、福田をよむこと」も〝福田恆存入門〟として再録されています。一読していただければ幸いです。
 また、友人でもある花田太平氏の「福田恆存の労働観」という文章も収録されています。これまで誰も注目してこなかった「労働」(働くことへの態度=倫理)という観点から福田恆存を論じています。「働くこと」を抜かして人が「生きる」ことがあり得ないように、「労働」とは人間が人間であることの基本的な条件だと言っていい。しかし、しばしば「精神労働」(文筆、教育、編集業など)によって身を立ててきた日本の近代作家(知識人)は、この問題を抽象的に論じるか、あるいは、なかったことのようにしてやり過ごしてきた。花田さんは、福田恆存の言葉を通じて、まさにこの根本的な問題に切り込んでいます。花田さんとの共演は〝原稿〟では初めてとなりますが、とてもいい文章です。 是非一読下さい。ちなみに、花田さんとの最初の共演である「保守とは何か」という対談(『新日本学』2014年春号、所収)は、http://criticalmoment.blog.jp/archives/1006502596.html でも読めます。よろしければ。
 あと、一般読者のみならず研究者にも嬉しいことに、『全集』『著作集』未収録文献が二つ(戦前に発表された「文学報国会評論随筆部会総会―決戦下の精神上の諸問題」発言(抄)と、「ロレンス『アポカリプス論』覚書」)が収録されています。編集の岩崎さん、編集協力の川久保剛さんには(くわえて、川久保さんは原稿のみならずブックガイドまで書かれていますが)、この度は本当にお世話になりました。心から感謝申し上げます。ありがとうございました! 

 以下は、『総特集・福田恆存-人間・この劇的なるもの』(河出書房新社)の目次です。

内容紹介

保守論、演劇、文芸批評、翻訳、国語問題……
普遍的な思想家であり多面的な文化人であった福田恆存
寄稿や単行本未収録論考などからその全貌に迫る決定版読本。

【目次】
○入門・福田恆存
中島岳志×浜崎洋介 いま、福田を読むこと

福田恆存への10の視点
浜崎洋介 ──福田恆存の「実存」 ──「特権的状態」論をめぐって
片山杜秀 ──粘り強く孤独に、つとめて理性的に ──福田恆存の演劇はいかなる声を欲したのか
中森明夫 ──人間・このアイドル的なるもの
佐藤健志 ──福田恆存の劇的精神 ──「敵」が立派なのは良いことだ
花田太平 ──福田恆存の労働観
川久保 剛 ──「真心」の精神
岡田俊之輔 ──福田恆存の國語論と保守派知識人 ──先づ隗より始めよ
小川榮太郎 ──福田戯曲と三島戯曲 ──真の古典性とは何か?
新保祐司 ──福田恆存と「絶対神を必要としなかつた日本人」
三浦小太郎 ──朴正煕と福田恆存 ──「善き政治家」と「善き文学者」の出会い

○メモワール
大岡昇平 ──隣人・福田恆存
吉田健一 ──福田恆存
瀬戸内寂聴 ──「伸子」と駄菓子
佐伯彰一 ──批評家魂のサムライ
筒井康隆 ──不条理劇 魂が震えた ──福田恆存「堅塁奪取」
塩野七生 ──福田先生のこと
金 聖鎮 ──白鶴のような哲学者
陳 鵬仁 ──福田恆存先生の思い出
黒田良夫 ──一つ盃 先生との別れ
福田 逸 ──父の肖像

○インタビュー
鳳 八千代 ──福田先生のセリフ
久米 明 ──演出家・福田恆存を語る
西本裕行 ──福田さんからの手紙

福田恆存論セレクション
岸田國士 ──福田恆存君の「キティ颱風」
江藤 淳 ──福田恆存の「シェイクスピア
西尾幹二 ──現実を動かした強靭な精神 ──福田恆存を悼む
磯田光一 ──福田恆存卒業論文 ──演劇精神との関連にふれて
西部 邁 ──保守思想の神髄 福田恆存
柄谷行人 ──平衡感覚
坪内祐三 ──二人の保守派 ──江藤淳と田恆存
遠藤浩一 ──福田恆存 ──「空しさ」に挑み続けた文士

○今こそ読みたい福田恆存コレクション
文学報国会評論随筆部会総会「決戦下の精神上の諸問題」発言(抄)
ロレンス「アポカリプス論」覚書
自信を持とう
教育改革に関し首相に訴ふ
反核運動の欺瞞 ──私の死生観

福田恆存略年譜
○BOOK GUIDE