批評の手帖

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『表現者クライテリオン』最新号(2020年5月号)が発売になりました!

表現者クライテリオン 2020年5月号

表現者クライテリオン 2020年5月号

  • 作者:藤井聡
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 雑誌
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 『表現者クライテリオン』の最新号(2020年5月号)が発売になりました。今回の特集は「『中華未来主義』との対決」です。
 今、世界は、この「コロナ禍」でメチャクチャですが、その混乱を「統制と監視」(あるいは、生物的本能によるMMTの実践)で乗り切ろうとしている中国は、今後の世界でますます勢いを増していくことでしょう。ということは、中国的な「デジタル未来主義」に対する世界の憧憬も、ますます強くなってくるだろうということでもあります。ただし、彼らには彼らなりの性格(帝国的統治と易姓革命)があり、私たちには私たちなりの性格(日本的国民国家とその伝統)があるはずで、その差異の自覚もなしに、単なる「憧れ」を語ることも、単なる「嫌中」を語ることもナンセンスです。
 では、この先、膨張する中華帝国(実は、日本人とは、その生き方を全く異にする中華文化圏)に飲み込まれずに、私たちの「自立(自由)」を担保するためには、どのような「自覚」と「覚悟」が必要なのか……今回の特集は、まさにその辺りのことを生態史観的・文明論的・精神論的な視野で論じつくした特集になっています(ちなみに言えば、「中華未来主義」絡みで、今話題の「加速主義」や「暗黒啓蒙」なんかを批判的に検討してみたいという人も、是非、手に取って頂ければと思っています。)
 また、この「コロナ禍」を受けての緊急インタビュー『我々は「新型コロナウイルス」とどう「付き合って」いくべきか?――ウイルス学の専門家に聞く/宮沢孝幸』(全文)や、前回好評だった特別インタビュー『養老孟司、常識を語る(第2回)システムを超える「もの」――「自然」「身体」「国語」の手触りについて』なども掲載しています。その他、読んでいただきたいお薦め原稿、書評などに言及していたら切りがありませんが、是非、手に取っていただければと思います。
 
 私自身の仕事としては、①先に挙げた養老先生へのインタビュー記事と、②與那覇潤さんを囲んだ特集座談会「中国化する世界――加速主義の誤謬と保守主義の必然」、③特集原稿『「機械化」のネクロフィリア――「未来主義」とその周辺』の寄稿、それから、④富岡先生を囲んだ文学座談会『「中華未来主義」文学座談会 現代中国の「想像力」を読む――劉慈欣『三体』をめぐって』などとなっています。
 今回は、対談、座談、原稿といろいろやっていますが、拙稿については読者の皆さんからの評価を待つしかないものの、対談、座談は間違いなく充実しているはずです。是非、一読よろしくお願いいたします!
 以下は、編集長からの言葉と、目次になります。ご参照ください。

表現者クライテリオン編集長 藤井 聡】
没落する西洋と引き籠もるアメリカ、そして失われた日本とは裏腹に、中国は凄まじい大躍進を遂げた。
今般のコロナ大恐慌においても、日米欧における経済被害が日々拡大している一方、いち早く収束を見た中国の「一人勝ち」の様相が濃密になりつつある。
こうして爆発的に成長し続ける中国に対して、停滞する欧米諸国において「憧憬」を億面なく表明する風潮が近年急速に拡大している。
こうした動きは今「中華未来主義」(サイノフューチャリズム)と呼ばれ、グローバリズムを礼賛する新自由主義や技術至上主義等の思想的潮流の中でさらに加速している。
しかしこの中華未来主義は、人間の生の豊穣性を否定し、伝統、文化、社会を根底から解体させる破壊力を明確に秘めており、したがって我々は決然と「対決」する姿勢が今、強烈に求められている。
 本特集は、この中華未来主義とは一体如何なるものなのか、そして、如何に対決していくべきなのかを、徹底的に論じようとするものである。
こうした考察は必ずや、コロナショックへの強靭な対応、ならびにコロナショック後の「世界」の有り様を考える上で決定的に重大な意味を持つ。

目次
【緊急インタビュー】
我々は「新型コロナウイルス」とどう「付き合って」いくべきか?――ウイルス学の専門家に聞く/宮沢孝幸 聞き手:藤井聡
【特別インタビュー】
養老孟司、常識を語る(第2回)システムを超える「もの」――「自然」「身体」「国語」の手触りについて/聞き手:浜崎洋介
【特集】
中国化する世界――加速主義の誤謬と保守主義の必然/與那覇潤×本誌編集部
「機械化」のネクロフィリア――「未来主義」とその周辺/浜崎洋介
中央アジアに見る中華「現在」主義/宇山智彦
没落する西洋と躍進する中国――中華未来主義とは何か/木澤佐登志
共産党支配をめぐる思想闘争――現代中国における「新権威主義」体制から「新全体主義」体制への移行/石井知章
未来主義というノスタルジア/佐藤健志(一言一会)
「中華未来主義」文学座談会 現代中国の「想像力」を読む――劉慈欣『三体』をめぐって/富岡幸一郎+本誌編集部
【新連載】
国際政治学パラダイム(第1回) 経済相互依存と制度主義/伊藤貫
【連載】
認識力欠損の危機/大石久和(「危機感のない日本」の危機 )
農は生の本なり――農から社会を組み立て直す/池上甲一(農は国の本なり)
フランス国民の共同体を取り戻せ(フランス保守論客インタビュー ジャン=ラサール「抵抗せよ」党首・下院議員 前半)/聞き手:及川健二
追悼 古井由吉――現代文学の最高峰/富岡幸一郎(虚構と言語 戦後と日本文学のアルケオロジー
伝統論再考――「創られた伝統」論の意義と限界/柴山圭太(「常識」を考える)
平和から生まれた国土と共同体――二百六十年間の江戸時代/竹村公太郎(地形がつくる日本の歴史)
青年よ、荒野をめざせ/磯邉精僊(問ひ質したきことども)
陰謀論の衝突と、米中文明の相似性/川端祐一郎(思想と科学の間で)
ヘブライ語復興運動と政治共同体の絆――言葉から考える(3)/施光恒(やわらか日本文化論)
理念にも動作環境がある/佐藤健志(だからこの世は宇宙のジョーク)
過度のバッシングが招く「霞が関崩壊」/松林薫(逆張りのメディア論)
メディア出演瓦版/平坂純一
編集長クライテリア日記/藤井聡
【書評】
『歴史に残る外交三賢人 ビスマルクタレーラン、ドゴール』伊藤貫 著/磯邉精僊
『評伝 西部邁高澤秀次 著/田中孝太郎
『魂と無常』竹内整一 著/薄井大澄
ハイデガーの超-政治――ナチズムとの対決/存在・技術・国家への問い』轟孝夫 著/篠崎奏平
『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか――アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』渡瀬裕哉著/岡﨑祐貴
【その他】
防疫と経済は両立させなければならない(鳥兜)
コロナが脅威であればこそ、狼狽えてはならない(鳥兜)
外国企業の参入に無警戒な日本政府(保守放談)